コルブの経験学習モデル を調べてまとめた

「ブログをなかなか書けないー」とこぼしていたら、「コルブの経験学習」というものを紹介されて興味を持ったので、まとめてみる。

「コルブの経験学習」の概要

「コルブの経験学習」は、経験から学ぶときの段階をモデル化したものである。
David Allen Kolb(デイビッド・A・コルブ)という人が考えたモデル。経験学習に関する教育理論を研究する学者のようだ。

このモデルでは、

  • 具体的経験
  • 内省的観察
  • 抽象的概念化
  • 能動的実験

という4つのステップを順にたどる。

……っていう説明で全部分かったら苦労は要らないね。あとで具体例などを説明する。

文献

最近は人事管理にちょっと関心があり、関連する書籍を読んでいるのだが、以下の2冊ではコルブの経験学習が紹介されていた。 どちらも人的資源管理/人事管理を総合的に説明している本なので、コルブの経験学習を説明しているのは数ページ程度である。

人事管理 -- 人と企業,ともに活きるために (有斐閣ストゥディア) p.149
経験から学ぶ人的資源管理 新版 (有斐閣ブックス) pp.114-116

上の2冊の本で参考文献として上がっていた、コルブ自身が書いた本は、
Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Development
である。初版が1983年、第2版が2014年に出版されている。日本語訳は無いようだ。

デイビッド・A・コルブの著作で日本語に訳されているものは1冊存在する。「最強の経験学習」という本である。

原題だと「How You Learn Is How You Live」なんですが、だいぶタイトルの意味が違いませんか……??

本当はコルブの本を読んだ上で論じたほうが良いのだが、手元にない。経験から学ぶ人的資源管理 新版 (有斐閣ブックス) と、ネットの内容を参考にして書いている。

その他、コルブの経験学習が紹介されている本など

コミュニティマネジメントとは何か、なぜ今重要か / これから始めるコミュニティマネジメント入門 (1) 155ページ
【新版】グロービスMBAリーダーシップ 126ページ
職場学習の探究 企業人の成長を考える実証研究 第1章

4つの段階の説明

本来は以下の4つの名称のようだ。画像検索すると色々言い回しを変えたバージョンが出てくるが、もともとは同じことである。

  • 具体的経験(Concrete experience)
  • 内省的観察(Reflective observation)
  • 抽象的概念化(Abstract conceptualization)
  • 能動的実験(Active experimentation)

4つの段階の説明については、経営学習論の研究者である中原淳氏の説明が詳しい。私が説明しても文献からのコピペになりかねないので、下記を参照されたい。
経験学習の理論的系譜と研究動向 中原淳(2013)日本労働研究雑誌 Oct.2013 No.639 pp4-14 ※リンク先PDF

「行動・経験」と「内省」への大別

下のスライドにもあるとおり、4つの段階は2つに大別される。具体的経験と能動的実験が「行動・経験」、内省的観察と抽象的概念化が「内省」である。

経験学習モデルにおいては「能動的実験・具体的経験」と「内省的観察・抽象的概念化」という二つのモードが循環しながら,知識が創造され,学習が生起すると考えられている(Jarvis 1995)。「能動的実験や具体的経験をともなわない内省的観察・抽象的概念化」は,「抽象的な概念形成」に終わり,実世界において実効をもたない。また「内省的観察・抽象的概念なしの能動的実験や具体的経験」は,這い回る経験主義に堕する傾向がある。「行動や経験を伴った内省」を起こしつつ,「内省を伴った行動」をいかに実践すること,すなわち「行動・経験と内省の弁証法的な関係」をいかに模索するか,が重要だとされている(Hoyrup 2004;Marsick and Watkins 1990)。
経験学習の理論的系譜と研究動向 中原淳(2013)日本労働研究雑誌 Oct.2013 No.639 pp4-14 ※リンク先PDF

中原淳氏も論文モードなので硬い言葉遣いで書いているが、同氏のブログ(LINEも登録して、よく読んでいます)みたいな砕けた文体に直すと……こんな感じだろうか。

「行動・経験ばかりで、内省をしないと、気づいたら体系的な知識が習得できてない、バラバラの知識のカケラばっかりじゃん、ガーン。ということになるかもしれません。
一方で、内省ばかりで、行動・経験をしないと、実際に役立たない理論や概念を作っておしまい、という問題が起こりえます。「机上の空論」という言葉があるでしょう。
行動・経験と内省は、どちらが欠けても上手くいかないので、上手く両輪を回していくのが大事なんですね」

タイトルは「経験と内省は車の両輪だ:「行動ばかり」と、「机上の空論」のワナ!?」とかになるだろう(何だこの予想)。

具体例

具体例が欲しいよね。
経験から学ぶ人的資源管理 新版 (有斐閣ブックス) の具体例を紹介する(本文だと400文字近くあって、まるごと引用するには少し長いので、pp.115-116から要点をまとめた。)。

  • 具体的経験:スーパーで働くAさんは、弁当の発注でミスを繰り返していた
  • 内省的観察:原因を調べると、先輩は近くのイベントを調べて発注の仕入れ数を決めていた
  • 抽象的概念化:近くのイベントを把握する必要がある
  • 能動的実験:近くのテーマパークでイベントがある日、多めに弁当を発注して成功した

知識付与型の学習と、経験学習

さらに調べていくと、「経験学習」とは? - 『日本の人事部』に気になることが書いてあった。

組織行動学者のデービッド・コルブはこうした学びを、体系化・汎用化された知識を受動的に習い覚える知識付与型の学習やトレーニングと区別し、「経験→省察→概念化→実践」という4段階の学習サイクルから成る「経験学習モデル」理論として提唱しています。
「経験学習」とは? - 『日本の人事部』

なるほど。「体系化・汎用化された知識を受動的に習い覚える知識付与型の学習やトレーニング」はコルブの経験学習で取り扱う対象ではない、というように読める。
例えば、一冊の参考書を順に読んでいって知識を習得する、みたいなのは当てはまらないってことかな。

西尾泰和氏の第1章 効率的に学ぶには―知識の3つの軸と学びの3つのフェーズ:エンジニアの学び方─効率的に知識を得て,成果に結び付ける|gihyo.jp … 技術評論社でも学習の段階をモデル化しているが、「知識収集」「抽象化」「応用」という3つのフェーズを考えている。「知識収集」という言い方を見ると、割と「体系化・汎用化された知識を受動的に習い覚える」ほうに近いのかもしれない。

経験学習尺度

経験学習尺度というのが、中原淳氏の職場学習の探究 企業人の成長を考える実証研究に載っている。「経験学習モデルの各段階の実行度を測定する」尺度らしい(同書p.46)。

参考:
学びの後の学びサイクル: 心のうち
経験学習の診断を行うための16項目の尺度 – ゲームを用いて貴社のチームビルディング研修,グループワーク,階層別研修をサポートします | 株式会社HEART QUAKE


前半で「コルブの経験学習」というモデルをまとめる。後半では「コルブの経験学習」とプログラミングやブログ記事との関係性について考察してみる……というつもりで書き始めたけど、前半だけでボリュームが予想以上に増えてしまって力尽きたので、後半はまた今度。
それでは。


補遺:

「這い回る経験主義」なんて初めて聞いた術語だったので、環境用語集:「這い回る経験主義」|EICネットアクティブ・ラーニングをどう評価すべきか?西岡加名恵氏に聞く | eduviewなどを調べてみると

  • 活動・経験という手段が目的化してしまう
  • 断片的な学習に終わり、体系的な知識が習得できない

の2つを指しているようだ。
もともとは戦後すぐの学校教育が「経験主義」に偏ったことを批判するために「這い回る経験主義」という言葉が生まれたようだ。学校教育で活動自体が目的になるとヘンだけど、社会人ならそれもアリだろう。「俺はAndroidシューティングゲームが作りたいから、作るぞ!」と、作ること(行動)を目的にしても不思議ではない。「這い回る 勉強会ばっか参加しまくっている人」とかは、手段が目的化していると揶揄されるかもしれない。しかし、一般には行動を目的とするのもアリだろう。
なので、社会人の自己学習においては後者のみが問題かなぁと解釈した。