新型コロナウイルスの「ステージ」とは何か? 分かりにくかったので調べてまとめた

新型コロナウイルスの話で使われている、ステージ3とか4とかいう概念が意味不明すぎる、という話。

私は暇さえあればインターネットばかり見ているような人間だ。私の知る限り、インターネットの世界では、2020年6月に出ていた「東京アラート」については否定的な意見が多かったように思う。「都庁を光らせたいだけだろ」「都民に何をしてほしいのか不明」みたいな意見が見られた。

ただ、この「ステージ」については否定的な意見がそれほど多くない。いや、肯定的な意見も否定的な意見も無い気がするので、誰も注目していないのかもしれない。でもニュースとかだと結構出てくるんだよね。調べてまとめてみたら、意味がよく分からないところが多かった。

注意事項、免責事項

私は報道関係者でも医療関係者でも行政関係者でもなく、一介のエンジニアです。

本記事の内容については細心の注意を払っておりますが、コンテンツの内容が正確であるかどうか、最新のものであるかどうか、安全なものであるか等について保証をするものではなく、何らの責任を負うものではありません。また、執筆者は通知することなく本記事に掲載した情報の訂正、修正、追加、中断、削除等をいつでも行うことができるものとします。
また、本記事のご利用により、万一、ご利用者様に何らかの不都合や損害が発生したとしても、執筆者は何らの責任を負うものではありません。

厚生労働省などの資料では「ステージIII」のようにローマ数字を使っていますが、本記事では「ステージ3」などの算用数字表記で統一します。ニュースとかで見るときは、ほぼ全部算用数字だし。

「ステージ」という概念は、いつ誰が言い出したのか?

Q. 「ステージ」という概念は、いつ誰が言い出したのか?
A. 2020年8月7日、政府の新型コロナウイルス分科会が提唱した。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/yusikisyakaigi.html
新型コロナウイルス感染症対策分科会」の「令和2年 8月7日 第5回資料 今後想定される感染状況と対策について」で、このステージという用語が書いてある。ここで「ステージ」という概念が初めて登場したのだと思う。

ステージ3
感染者の急増及び医療提供体制における大きな支障の発生を避けるための対応が必要な段階
ステージ2と比べてクラスターが広範に多発する等、感染者が急増し、新型コロナウイルス感染症に対する医療提供体制への負荷がさらに高まり、一般医療にも大きな支障が発生することを避けるための対応が必要な状況。

ステージ4
爆発的な感染拡大及び深刻な医療提供体制の機能不全を避けるための対応が必要な段階
病院間クラスター連鎖などの大規模かつ深刻なクラスター連鎖が発生し、爆発的な感染拡大により、高齢者や高リスク者が大量に感染し、多くの重症者及び死亡者が発生し始め、公衆衛生体制及び医療提供体制が機能不全に陥いることを避けるための対応が必要な状況。
(今後想定される感染状況と対策について p.3より なおローマ数字は算用数字に直した)

7月31日段階で、分科会は「(1)感染ゼロ散発段階(2)感染漸増段階(3)感染急増段階(4)感染爆発段階」という4段階に分けることを提案している(https://news.yahoo.co.jp/articles/7144a4abf31c94a588b8bc20cabc7e4ec9f1ec74)。具体的な指標と基準値を定めたのが8月7日だな。

どのステージなのかの判断は、指標から自動的に決まるのか?

Q. どのステージなのかの判断は、指標から自動的に決まるのか?
A. いいえ。各指標の数値はあくまで「目安」であり、どのステージなのかは総合的に判断する。

ただ尾身会長は、こうした数値はあくまで「目安」であり、1つでも数値が基準値を超えたら機械的に次のステージに移行するわけではないと強調。「指標は国、地方公共団体が総合的に判断するための目安であり、地域の実情に合わせた対策を講じる」必要があると説明した。 https://news.yahoo.co.jp/articles/6aca60a0f5e781f2a732e86c5173632dbfaa52a7

「この県はステージいくつです」を誰が決めるのか?

Q. では、「この県はステージいくつです」を決めるのは誰か?
A. おそらく、都道府県と国

分科会の「令和2年 8月7日 第5回資料 今後想定される感染状況と対策について」資料より。

提案する指標は「あくまで目安」であり、また、一つひとつの指標をもって機械的に判断するのではなく、国や都道府県はこれらの指標を「総合的に判断」して、感染の状況に応じ積極的かつ機動的に対策を講じていただきたい。
( 今後想定される感染状況と対策について p.4より)
以下の指標は目安であり、また、これらの指標をもって機械的に判断するのではなく、国や都道府県はこれらの指標を総合的に判断していただきたい。
( 今後想定される感染状況と対策について p.5より)

この資料を読むと「国や都道府県は」と、国と都道府県を並列に並べて判断主体にしている気がする。

しかし、都道府県知事、と単に書いてある記事もある。うーん、よく分からない。

Q:誰がどうステージを決めるの?
都道府県のステージを判断するのは、各々の知事という立て付けになっています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/6aca60a0f5e781f2a732e86c5173632dbfaa52a7?page=2

分科会は「指標はあくまで目安」とする。尾身氏は「現場を知っているのは知事さん。知事が主体的にやるべきだ」と判断を都道府県に委ねた。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/47720

これまで、どの都道府県もステージ2以下とみなされてきた。11月に入って北海道や東京都などでは、分科会が示したステージ3の六つの指標のうち多くで上回るが、判断は知事に委ねられ、分科会のステージに即した対策の議論は進んでいなかった。 https://www.asahi.com/articles/ASNCN6QCWNCNULBJ01P.html

分科会がステージを判断してはダメなの?

Q. 分科会がステージという概念を作ったんでしょ? 分科会がステージを判断しちゃダメなの?
A. 分科会が「個人的な意見」としていくつかの都道府県を挙げたことはある。しかし、分科会は判断するのは都道府県と国だという姿勢であり、分科会が判断することに対して否定的だ。

都道府県を名指しで挙げたことはある。11月20日新型コロナウイルス対策分科会の会見だ。分科会が判断するわけではないから、専門家の個人的な意見だけど、という留保がついている。

「(中略)現在の感染状況を考えれば、いくつかの都道府県でステージ3相当と判断せざるを得ない状況に、早晩至る可能性が高いとわれわれは判断している」と述べ、厳しい状況の地域が複数あるとの認識を示した。質疑で具体的な都道府県名を問われると「専門家としての個人的な意見」と前置きしたうえで「北海道の札幌はステージ3に入っているんじゃないか。東京や大阪などはステージ3に近づきつつある」と言及した。
https://news.yahoo.co.jp/articles/57194ece0c8ecb6f4b7746d7fac2ded63e1d2513

その後、11月25日の新型コロナウイルス対策分科会の会見でも、同様に留保をつけつつ地域名を挙げている。

その地域がどのステージに相当するかを判断するのは「都道府県が政府と連携してやる」ことで、「判断するのは我々の仕事ではない」と述べた。
しかし、記者からさらに具体的な地域名を求められると「(分科会としての)判断ではない」と断ったうえで、「おそらく札幌は(入る)。それから島しょは別だが、23区も。東京の場合は、以前は一部地域だったけど23区を中心に感染が、ほとんどの地域に拡散している。あとは、これも名古屋市もそう(ステージ3相当)じゃないか。大阪市なんかもそれだとわれわれは考えている」と語り、札幌市、東京23区、名古屋市大阪市が該当するとの見解を示した。
https://news.yahoo.co.jp/articles/8f973cdbbf30ff3b5aefedceb8b1cdad781cd9dd

ただ、分科会はステージの判断に対して「あくまで参考」という立場を崩していないようだ。
12月11日の会見では、記者が「分科会がステージ判断をした方がよいのでは」と質問したのに対して、分科会の尾身会長が否定している。「ステージを判断するのは、分科会の役割ではないから」という理由のようだ。

(12月11日の会見では、ステージ3を「減少」「高止まり」「拡大継続」という3つの「シナリオ」に分割する話があった。が、この「シナリオ」という話は、ステージ分類に輪をかけてよくわからないので、この記事では大きく扱わない)

その地域の感染状況がどのステージに該当するかのステージ判断は、都道府県知事と国が連携して決めることになっている。前述の通り、分科会はステージ3相当の地域ではGo Toトラベルを一時停止することを求めているが、Go Toトラベルからの除外を検討する局面で国と自治体の間でボールを投げ合うようなケースもあった。
 会見では、むしろステージ判断自体を専門家が主導する方が早いのではないかとの質問も出たが、尾身会長は役割分担の明確化を挙げて反論した。
「分科会(の役割)は対策を提案することで、実行するのは我々の仕事ではない。ここが専門家と政府の役割(分担)で、そのことが曖昧になったのが当初の専門家会議」
さらに言葉を強めて続けた。「ステージ3というのは、こういう状況を言うと(分科会は)ここまで示している。普通にやればステージ2なのかステージ3なのか分かるような書き方を(している)。自治体と国は、都道府県民・国民のために今まで以上の英断を、決断、判断をしてほしい」 https://news.yahoo.co.jp/articles/f793ea3f22baa81eb02e2f82f11574522a1c2000?page=2

分科会のこの日の記者会見では、政府や都道府県ではなく、分科会がステージ判断をした方がよいのでは、という質問が出たが尾身茂会長は否定した。
今春の「第1波」の際、医学的見地から対策を助言した「専門家会議」は「政府との役割分担が曖昧」と批判を浴び、現在の分科会に衣替えした。政策決定には踏み込まないようにしており、尾身会長は「知事が早く判断していただきたい。早めに手を打ってください」と訴えた。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/73854

ステージという概念はどの程度活用されているのか?

Q. このステージという概念はどの程度活用されているのか?

A. 都道府県が独自に警戒レベルを作っているところが多く、分科会の定めるステージを活用している都道府県はそれほど多くない。 ただ分科会は基本的に「ステージ」を使って話をしていると思う

都道府県が「どのような指標や警戒レベルを使っているか」については日経の記事がよくまとまっていた。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODG115Z7011122020000000

国はこの「ステージ1〜4」、北海道は独自の「ステージ1〜5」、東京は「管理状況と医療提供体制について、それぞれ4段階」などなど。都道府県によって使うレベルはバラバラなのだ。

ただ、分科会がコメントするときは基本的に「ステージ2」「ステージ3」という概念を使って話をする。例えば、Go To トラベルとの関係だと、「ステージ3」ならGo Toは中止(尾身氏「ステージ3地域、GoTo停止を」 衆院厚労委感染急拡大ならGoTo停止も コロナ「大流行に最大警戒」―政府)、「ステージ2」ならばGo Toを再開してもよい(ステージ2なら事業再開 GoTo一時停止で―尾身氏)と発言している。

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は17日の参院内閣委員会の閉会中審査で、年末年始に全国で一時停止する国の観光支援事業「Go To トラベル」に関し、東京都や大阪市の状況が感染の漸増を示す「ステージ2」まで改善すれば、全国で事業を再開しても問題ないとの考えを示した。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020121700972&g=pol

では、それぞれの都道府県はどこのステージなのか、を知りたくなるだろう。それが次の問題だ。

都道府県はステージいくつなのか?

Q. 各都道府県はステージいくつなのか?
A. 一覧は無い。

「この都道府県は現在ステージいくつ」という一覧表はあるかなと探したが、見つからなかった。

ステージ3

「ステージ3と判断した」という地域は探した限り以下の通りである。(判断した日付の順に 並んでいる)

最も感染者数が多い東京はいくつなのか? 「コロナ ステージ 東京」で検索したけど、「東京都はステージいくつです」と判断したという記述は無かった。(尾身会長は東京都をステージ3相当だと述べているけど、それはあくまで参考意見である。)
ところで、2021年1月2日には東京都などが政府に対して緊急事態宣言を発出するよう要請した。ステージ分類の資料では、ステージ4では「緊急事態宣言など、強制性のある対応を検討せざるを得ない(今後想定される感染状況と対策について p.8より)」と書いてある。ということは、東京都はステージ4に入っているか、入りそうになっているか、そのどちらかの状態だろう。しかし東京都自身は、現在に至るまで、ステージ3だとも4だとも明言していない。ここまで考えると、東京はこのステージという概念をほぼ無視している、と考えるのが妥当な気がする。

なお2020年12月9日の時点では、ステージ3に該当すると判断された都道府県は無いらしいです。

加藤勝信官房長官は9日の記者会見で「現時点でステージ3に該当すると判断された都道府県はないと承知している」と話した。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFS098U30Z01C20A2000000

ステージ2

また、ステージ2に該当すると判断した都道府県は探した限り以下の通りである。

なお調べている中で興味深い記事があった。神奈川県の状況について記した東京新聞の記事だ。記事の日付は2020年12月22日なので、上記の「神奈川県 ステージ3」よりも前だ。「複数の県幹部が「ステージ引き上げに強く反対したのは、政府と横浜市だ」と断言した」らしい。
12月14日に、政府はGo To トラベルを全国一斉に一時停止することを決定している。12月14日より前に神奈川県を「ステージ3」に引き上げようとすると、そこだけGo To トラベルを停止する必要があるはずだ。

十一月以降、感染状況を表す七指標のほとんどが「ステージ3」(感染急増)に達しても、ステージ引き上げは判断しなかった。(中略)
「強いメッセージを出して感染増を抑える」ことを重視する知事が、最も端的に危機感を伝えられる「ステージ引き上げ」をしないのは、どう考えても異様だった。(中略)
ステージを引き上げなかった事情を問われた知事は「じくじたる思い」「県と国、政令市が一枚岩にならないといけない」と話した。思い切った判断ができない背景に、政府や政令市の意向があることを強くうかがわせた。横浜市は認めていないが、複数の県幹部が「ステージ引き上げに強く反対したのは、政府と横浜市だ」と断言した。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/75853

分科会の「お願い」は一体誰に向けたお願いなのだろうか?

分科会の最新の資料は、「第19回資料 現在直面する3つの課題」という2020年12月23日の資料である。
この中の19〜24ページには「皆さんへのお願い」が書かれている。 その中でp.23を見てみよう。

シナリオ3の地域の皆さんへ
(中略)そのため、シナリオ3の地域では、年末年始に向けて、次のことをお願いします。 1. 忘年会・新年会は基本的に見送ってください。 2. 帰省(とりわけ感染地域とそれ以外の地域での往来)も、ご家族と相談の上、控えることや延期・分散も含め慎重に検討してください。
3. イルミネーションについては早めの消灯。カウントダウンイベントなどについてもオンラインを活用した形で開催。いずれにしても混雑する時間は避けることなどをお願いします。

ああ、「シナリオ3の地域の皆さん」は忘年会新年会をやるなという要請を分科会もしてたんだ。知らなかったわ。
3はイルミネーションやイベントの主催者に向けたお願いだろう。1、2は一般市民へのお願いだろう。お願いする相手が違うものを一緒くたに載せるのはどうなのかと思うのだけど。それよりも問題なのは、お願いする相手が誰なのか不明だという点である。

  • これは、ステージ3(感染急増)の中のシナリオ3(拡大継続)の地域の住民に対して分科会がお願いした事項である
  • ステージやシナリオの判断は「国と都道府県が連携して」やってくれ、と分科会はいう
  • 少なくともこの時点(12/23)でステージ3と宣言したのは北海道札幌市だけ
  • さらにステージ3の中でどのシナリオだと宣言した地域はない(私の知る限り)
  • じゃあこれは一体誰に向けたお願いなのだろうか?????

ここまでの感想

乱暴にまとめると、下みたいな感じの理解で良いのかな? 分科会と国と都道府県が全てバラバラに動いているのが分かった。分科会は「ステージ」という概念に立脚して話をしようとしている、しかし「ステージ」は多くの都道府県が採用していないので、根無し草のような議論になってしまう。話が噛み合ってないというわけだ。

  • 分科会「どのステージなのかは、都道府県が国と連携して判断してね」
  • 都道府県「いや、うちはこの独自基準で運用するんで。国のステージは分かりにくいから、使わなくていいや」
  • 国「都道府県が何も言ってこないから、ステージ3の地域はありません」
  • 分科会「ステージ3の地域ではGoToは中止すべき」
  • 俺「それはどこだよ」
  • 分科会「いや、ステージ3を判断するのは都道府県と国だけど」
  • 分科会「ステージ3の中のシナリオ3の地域の皆さん!忘年会と新年会はやめてください!」
  • 俺「だからそれはどこだよ」
  • 分科会「いや、ステージとシナリオを判断するのは都道府県と国だけど」

結局、「ステージ」がどういうふうに使われているか、を考えると、あれだわ。ニュース番組や情報番組が「各都道府県でステージ3と4の指標をこんなに上回っています! 東京も! 大阪も!」って表にまとめている。テレビを見た人が「ふーん、感染が拡大してるね、医療が逼迫してるね」って理解する、そのときだけ使われている気がする。個人的には、ステージという概念は何かの意思決定の判断根拠にはなってはいない、という理解である。

参考リンク

素人がまとめたものよりも、新型コロナウイルス「ステージ」に関するちゃんとした記事を見たいという人は、以下の記事をご覧ください。

【Q&A】新型コロナ報道で耳にする「ステージ」って何? 2020年10月13日の記事。

【Q&A】コロナ分科会が提言。“ステージ3地域”の「3つのシナリオ」とは? 2020年12月12日の記事。分科会が新たに言い出した「シナリオ」の話。

新型コロナ対応の目安、「ステージ」とは 2020年12月7日の記事。リンクで飛ぶと「会員限定です」と書いてあって記事が見られないが、Google検索からだと記事内容を閲覧できる。

政府の新型コロナ分科会 新型コロナ 各地で異なる“ステージ”分け 2020年11月17日の記事。

新型コロナ 感染状況のステージと6指標 毎週金曜日に厚生労働省が「各都道府県の指標の値」をまとめている。それを見やすくしたのがこのYahoo内の表である。ステージ3や4の指標を超えた地域には色を付けている。