行動指針のポスターを貼っても変わらない理由をAIDMAフレームワークから考える

ある日の昼休みの会話

ある日の昼休みのこと。
昼飯を一緒に食べていた同期に「行動指針」の話を持ち出してみた。
すると同期がこう言い出した。
「そう言えば、俺のいる席の近くで、行動指針のポスターを会社がめっちゃ貼ってるんだわ」
「ポスター?」
「うん。多いところだと数メートルおきに貼ってあるよ」
会社の行動指針というものが1年以上前に制定された。
ポスターというのは、4箇条からなる行動指針が、大きく箇条書きしてある、シンプルなものだ。その下に「頑張ろう!」とか書いてあったように思う。
「……で、その行動指針のフレーズってのは、皆が言うようになったの?」
「それが誰も言わない。全く言わないんだ」

興味が湧いた俺は、昼飯を済ませたあとに「ちょっと面白そうだから」と言って、別のフロアにある同期の席まで行ってみた。
案内してくれる同僚に付いて回ると、確かに到るところ、数メートルおきに、行動指針のポスターが貼ってある。

色々考えてAIDMAフレームワークの適用を思いついた

最近になって、行動指針に関する目標が新たに制定された。
みんなが日常会話の中で自然と使っている状態というのが目標らしい。
(この目標じたい、行動指針を制定してから1年以上経ってから公開されたので、遅きに失した感がある。目指すべき目標を真っ先に明確にすべきだったと思う)

で、現状は確かに、「自然と使っている状態」に全くなっていない。
偉い人(社長とか事業部長とか)が皆の前で話すときには行動指針の語句が出てくる。
しかし、それ以外のシチュエーションの会話では、一度たりとも聞いたことがない。

そもそも、行動指針を策定したのは1年以上前のことで、その時にポスターは少し貼っていたのだ。
しかし、すでに書いたとおり、全くもってこれらの語句は浸透していない状態だ。
だから浸透させるために、ポスターをもっとたくさん貼りまくった。……というのが今の状況だ。

で、「自然と使っている状態」という目標のための施策が、ポスターを貼りまくること、ねぇ。
ポスターを貼るだけで、皆の会話の中に行動指針のフレーズが出てくるものだろうか? そんな簡単か?
もしもそんな簡単だったら、電車内で本の広告があったら全員がその本を買うんじゃないか?
……と考えて、あることを思い出した。

プロモーション(広告宣伝)を考える上で役に立つフレームワークAIDMAである。
というわけで、行動指針とポスターの話をAIDMAフレームワークから考えてみる。

AIDMA

辞書を調べるとAIDMAの定義は以下の通りだ。

AIDMA は、注目(attention)、関心(interest)、欲望(desire)、記憶(memory)、行動(action)から〕
見込み客が製品を買うにいたるまでの心の動きの過程についての法則。AIDCA の法則における確信を記憶に置き換えたもの。

AIDMAの法則とは - コトバンク より引用

ただし、AIDMAには非常に多くのバリエーションが存在する。(AIDCAとかAIDAとかAISASとか……)
絶対的な法則ではなく、大まかな傾向としてこんなもの、と考えるくらいで良いみたいだ。

プロモーション(広告宣伝)をする側は、顧客がどの段階に属しているかを考えて、それに合致した広告を打つ必要がある。

行動指針を定着させる施策に対する違和感の正体

さて、AIDMAフレームワークを「行動指針」に応用してみよう。
(もちろん、「会社と従業員の関係」と「広告主と購買者の関係」は異なるものである。
会社は従業員に対して権力を持っているので、強権を発動することによって目標を達成するという手段もできる。
例えば、目標とする行動をしなかった人を片っ端から最低の評価にするといった方法を取ることが可能である。
しかし、なぜか分からないが、会社側は強制的に行動指針を押し付けるのではなく、割と広告っぽい方法を取っている。
そのため、「自主的に商品を購入する人」のためのフレームワークをある程度は応用できるのではないか。)

最後の「行動(Action)」に当たるのは、商品を購入することではなく、「行動指針のフレーズを自然と使っている」ことである。
そして、その行動は現状では達成されていない。

で、ポスターをバーンと張り出すのはどの段階の施策だろうか。
部屋の壁のあちらこちらに貼られているので、行動指針の存在を知らないままでいるのが難しいほどである。
つまり「注目(Attention)」のステップは、完了しているだろう。
行動指針のフレーズをただ並べて掲示しただけでは、万人の興味関心を呼び起こすとは考えづらいので、「関心(Interest)」には至らないと思う。

つまり俺の違和感は以下のように言い表せる。
実際に必要なのはその後のI・D・Mあたりに対する施策なのに、
相も変わらず依然として、最初のAの施策を続けているのことが問題なのだ。

購買行動のActionの場合は、「やっぱり値段が高いから」「買ったら場所を取るしなぁ」などの理由で最後の購買行動をためらう場合がありそうだ。
しかしながら、「行動指針のフレーズを自然と使っている」場合はこのような阻害要因は無い。
行動指針の言葉を一回発言するごとに1000円を取られるわけでもないし。
(あるとすれば「発言したら馬鹿にされそう・変な目で見られそう」という心理的な抵抗感だろう。)
したがって、その前のI・D・Mを満たせば、容易にAは達成されると思う。

I「興味関心を持つ」が達成されていない状態の気持ちは
「興味がない・無関心・別にどうでもいい・気に留めない」くらいかな。
これを「お、何か面白そうなことやってるじゃん」に持っていくのはどうやれば良いんだろう?
ちょっとすぐには良い施策が思いつかないや。

freeeの例

最後にちょっとおまけ。
行動指針の話で検索してみると、freeeの事例がよく出てくる。(freeeの場合は「価値基準」と呼んでいる。)

ミーティング中に普通に価値基準が飛び交っててびっくりしました。「それって、マジ価値じゃないよね?」とか「理想ドリブンでいうと、こうだね。」とか。
(中略)
まず、社内アンケートを実施し、現在、価値基準がどのレベルまで浸透しているか把握しました。
(中略)
認知できたとしてもそれを理解して行動に移せないと意味がないですよね。だから既に実施している人にインタビューを実施し、全社的に流して、理解度と行動を促しました。
https://jobs.freee.co.jp/recruitblog/aboutus/kachi-vol1/

行動施策について社員にアンケートを取り、

  • 「認知していない」
  • 「認知しているが理解していない」
  • 「理解しているが行動していない」
  • 「行動している」

の4つに分類した。 上で論じていたAIDMAと同様に、社内の人間を「どこの段階までできているか」で分けている!
その上でそれぞれの層に対する施策を考えて実施している。
こうしてみると、行動指針を浸透し定着させるには、緻密なマーケティングとかプロモーションが必要なんだな……

それでは。