役割外行動と組織市民行動について

組織行動論における「役割外行動(extra-role behavior)」についてまとめる。

主に「組織行動 (鈴木竜太・服部泰弘 著、有斐閣ストゥディア)」を参考にした。

役割外行動とは何か

役割外行動とは、「職務の範疇外の自発的・革新的な行動をすること」(組織行動 p.217)とされている。

英語で検索してみると、以下の定義が見つかった。出典はEXTRA ROLE BEHAVIOR

・Discretionary consent of an individual to behave beyond the formal lines of role expectation and work for the benefit and effectiveness of the organisation (Organ et al., 2006).
拙訳:個人が自己裁量を持つ中で納得し、役割の期待の正式な境界線を超えて行動し、組織の利益と効率のために働くこと。

・Activities that are discretionary in nature (such as helping others), which is not directly or explicitly required by the formal reward system, but does promote overall organizational efficiency (Becker and Kernan, 2003).
拙訳:自己裁量があるという性質を持つ(例えば他者を助けるなど)行動であって、正式な報酬体系が直接的や明示的に要求してはいないが、組織の全体的な効率を向上させるもの。

組織行動

組織において個人に求められる3つの行動とは何か

上記の「役割外行動」は、組織において個人に求められる3つの行動の一つである……と、組織行動には書いてある。3つの行動は以下の通りだ。

  • 組織に居続けること(参加)
  • 最低限のパフォーマンスを上げて、勤勉に働くこと(役割内行動)
  • 職務の範疇外の自発的・革新的な行動をすること(役割外行動)

この「参加・役割内行動・役割外行動」という3分類は私にとってなるほどと納得がいくものであった。(だから一度まとめておこうと思ったので、こうして書いている。) しかしながら、この3分類のフレームワークは、鈴木氏以外の本には登場しない。同じ作者の経営組織論(鈴木竜太 著、東洋経済)には載っているのだが、他の組織論の本を見ても登場しない。 ……鈴木氏独自の理論なんだろうか?

また、この3つの行動は何なのか、は、本の各部分によって微妙に言い回しが変わっている。「組織において個人(組織メンバー)に求められる行動(組織行動 p.6)」、「組織が存続し続けるために必要不可欠な行動(同書 p.217)」、「組織が生き残っていくために、組織で働く個人に求められる行動(経営組織論 p.99)」。まとめると、組織が存続するためには不可欠で、そのために個人が求められている行動、ということか。

組織市民行動とは何か

ところで、執筆時点で「役割外行動」とGoogle検索すると、最初に表示されるページは「組織市民行動」とは? - 『日本の人事部』である。
このページは、なんと「役割外行動」ではなく、「組織市民行動」を説明しているページである。

組織市民行動(organizational citizenship behavior)とは何だろうか。組織行動 p.219 によれば、以下の3つの特徴を持つ行動を組織市民行動と呼ぶ。

  1. 公式的には報酬に結びつかない
  2. 組織にとって有意義な行動
  3. 自らが必要であると判断して行う自己裁量的な個人行動

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaas1986/15/1/15_1_1/_pdf

なお組織市民行動という概念を最小に提唱したのは、Dennis Organという人らしい。OrganさんがOrganizationの研究をしてるのって面白くないですか

「役割外行動」とは何が同じで何が違うのだろうか。

先ほどの「組織市民行動」とは? - 『日本の人事部』では、以下のように書いている。

「組織市民行動」とは、企業や団体の従業員が自分の職務の範囲外の仕事をする「役割外行動」の一種で、英語ではOCB(Organizational Citizenship Behavior)と呼ばれます。

組織行動 p.7 でも同様に、「組織市民行動は、役割外行動の一部である」と書いてある。一方で、検索してみると以下の記述が見つかった。

役割外行動(extra-role behavior)かつてこの用語は、単に従業員が職務の範囲外の仕事をすることの意味で用いられていたが、最近では組織市民行動とほとんど同義に用いられていることもあり、意味的にはいくらか混乱を招いている。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaas1986/15/1/15_1_1/_pdf

何だか、用語の意味が一定していないようだ。

役割外行動と組織市民行動の異同については、Organizational citizenship behavior - Wikipediaも参照されたい。

参考

一緒に働く人々を理解したい!――【自著を語る】『組織行動』 | レビュー | Book Bang -ブックバン-